コンサルティング契約書の作成・レビューにあたっての注意点

第1 はじめに

コンサルティング業務は、知的資産、ノウハウなどをアドバイスする業務であるため、実際にコンサルティングを受けてみないとその質的内容が分からないことも多く、その業務の範囲、実施の方法などについて具体的に特定しておかなければ、後々業務内容の履行がなされたといえるのかという点につきトラブルに発展しやすいところです。

また、中途解約や報酬の支払いなどを巡るトラブルが多い類型の契約になります。 そこで、コンサルティング契約におけるトラブルを予防するために最低限押さえておきたいポイントを含めて、以下のとおり、解説いたします。

第2 コンサルティング契約書における一般条項例

第1条   契約の目的
第2条   コンサルティング業務の範囲
第3条   コンサルティング業務の遂行方法
第4条   再委託
第5条   契約期間
第6条   報酬と報酬の支払い時期
第7条   知的財産の帰属
第8条   禁止事項
第9条   秘密保持
第10条 損害賠償
第11条 契約の解除
第12条 反社会的勢力の排除
第13条 合意管轄

 

第3 コンサルティング契約書の各条文の逐条解説

第1条 契約の目的

まず、契約の目的を記載するものであり、当該契約書がコンサルティング業務に関する契約書であることを明記します。

【記載例】
第1条(契約の目的)
委託者(以下「甲」という)は受託者(以下「乙」という)に甲に対するコンサルティング業務を委託し、乙はこれを受託する。


第2条 コンサルティング業務の範囲

第2条ではコンサルティング業務の範囲を記載します。

【記載例】
第2条(委託業務の内容)
本契約において、乙が甲に対して提供する業務(以下、「委託業務」という)は次の通りとする。

(1)甲の●●事業に関する助言
(2)甲の●●事業に関する企画
(3)甲の●●事業に関する分析
(4)甲の●●事業に関する運用、改善に関する助言
(5)甲の●●事業に関する広告

→以下では、委託者なのか受託者なのか、立場に応じて修正することが肝要です。

●コンサルティングをする受託者側の立場

※ポイント
業務量が多くなりすぎると、業務量が報酬額に見合わなくなる可能性があります。
 そこで、業務の内容を具体的に特定して、広範にならないようにする必要があります。
➡別料金がかかるケースがあればそれを明記する
➡毎月のコンサルティング業務の時間の上限を明記する
➡業務量に応じて報酬を増額することができることを明記する

●コンサルティングを受ける依頼者側の立場

※ポイント
できるだけ幅広い助言を得られるようにしておくことが依頼者としてはメリットとなります。そのため、例えば、記載例の条文に続いて「(6)その他上記に関連する一切の相談についての助言」などと入れておくといった工夫が考えられます。


第3条 コンサルティング業務の遂行方法

第3条にはコンサルティング業務を実際にどのように行うのかを記載します。

【記載例】

第3条(委託業務の遂行方法)
乙は毎月1回、担当者に甲を訪問させ、業務の進捗、方針に関するミーティングを行う。

●コンサルティングをする受託者側の立場
コンサルティングをする受託者側の立場からは、費用や時間の関係で、メールや電話でのコンサルティングを予定しており、訪問しての面談は予定していない場合があります。
そのような場合は、訪問しての面談は予定していないことを明記しておくことが重要です。

●コンサルティングを受ける依頼者側の立場
一方、コンサルティングを受ける依頼者側の立場からすると、例えば、訪問を希望したり、担当者を指定したい場合や、毎月レポートを出してほしい場合などはそのことを契約書に入れておく必要があります。

具体的には、コンサルティングを「電話やメールで行うのか、あるいは実際に面談して行うのか」、「面談で行う場合に場所はどこか」などといったことを記載します。

【修正案の具体例】
第3条(委託業務の遂行方法)
1 乙は委託業務を●●●●に担当させ、それ以外の者に担当させない。
2 乙は毎月1回、●●●●に甲を訪問させ、業務の進捗、方針に関するミーティングを行う。
3 乙は毎月末日までに、委託業務の進捗、成果について記載したレポートを作成し、甲に提出する。


第4条 再委託

コンサルティングを引き受けた受託者側が他の第三者に業務を外注することを認めるかどうかについて記載します。

【記載例】
第4条(再委託)
乙は委託業務を第三者に再委託してはならない。

●コンサルティングを受ける依頼者側の立場
依頼者としては、受託者の人的な人柄や性格、能力を見込んで委託しているわけであるため、無断での再委託はやめてほしいという意向が通常かと思います。そのため、上記では外注を認めない場合の記載例をご紹介しており、当該記載例は、コンサルティングの委託者側の意向に沿った記載となります。

●コンサルティングをする受託者側の立場
一方、コンサルティングをする受託者側の立場からは、業務を外注できなければ不便な場合もあります。そのような場合は、依頼者の承諾を得なくても外注できるようにしておくことが便利です。その代わり外注先の業務についても受託者において責任をもつ内容の契約条項にすることが考えられます。

【修正案】
乙は、必要に応じて、委託業務の全部又は一部につき、乙の責任において第三者に再委託することができる。ただし、乙は、再委託先に対し、乙の義務と同等の義務を負わせるとともに、再委託先の行為について一切の責任を負うものとする。


第5条 契約期間

コンサルティング業務の契約期間について記載します。

【記載例】
第5条(契約期間)
本契約の有効期限は本契約締結日より1年間とする。但し、契約期間満了の1か月前までに甲乙双方特段の申し出がなければ、自動的に1年間延長されるものとし、以降も同様とする。

●コンサルティングをする受託者側の立場
コンサルティングをする受託者側の立場からは、上記の文言に加えて、契約期間中の解約を禁止する条項を入れることが考えられます。
特に、コンサルティング契約の初期に多大な労力がかかるようなケースでは短期間で解約されると受託者として利益がでないことにもなりかねません。また、そもそもある程度の期間コンサルティングをしないと成果が出せないような性質の業務もあると思います。
そのような場合は、最低契約期間を定めてその期間中は解約できない内容にすることも検討する必要があろうかと存じます。

【参考例】
第○条(中途解約禁止)
甲及び乙は、本契約期間中においては、第●条に定める解除事由に該当しない限り、本契約を中途解約できないものとする。

●コンサルティングを受ける依頼者側の立場
一方、コンサルティングを受ける依頼者側の立場からすると、コンサルティングは受けてみなければその内容に満足できるかどうかわからない性質のものであることをおさえておく必要があります。そのため、契約期間の途中でも、コンサルティングの内容に満足できなければ途中解約できる条項をいれておくことが重要です。

【参考例】
第○条(中途解約)
甲及び乙は、1か月前までに相手方に書面をもって通知することにより、本契約を解約することができるものとする。


第6条 報酬と報酬の支払い時期

報酬の額と支払時期について定めます。

【記載例】
第6条(報酬と報酬の支払時期)
1 甲が乙に支払う報酬は、月額●●万円(税別)とする。乙は、当月分の報酬を甲に請求し、甲は、請求対象月の翌月末日までに、乙の指定する金融機関口座に支払うものとする。
2 報酬の支払に必要な振込手数料は、甲の負担とする。

※報酬額と支払方法については、以下のパターンが考えられます。

・上記の記載例のように毎月定額の報酬とするパターン
・報酬を売上や利益の「●%」と定めるパターン
・報酬を、業務に従事した時間数に応じて「1時間あたり●●円」など定めるパターン(タイムチャージ制)
・前月からの売上増や利益増に対して、増加額の●%と定めるパターン
(成功報酬型のコンサルティング契約)

※売上や利益を基準とする場合は、基準となる売上や利益をどのように計算するのかという点まで定めておかないと、報酬額の計算方法をめぐってトラブルになりますので注意してください。


第7条 知的財産の帰属

コンサルティングの過程で発生したテキストやコンテンツの著作権について定めます。
著作権をすべてコンサルティングを受ける依頼者側に帰属させる場合は、以下のような契約条項になります。

【記載例】
第7条(知的財産の帰属)
委託業務の過程で作成された著作物の著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)、及び委託業務の過程で生じた発明その他の知的財産又はノウハウ等に係る知的財産権は、全て甲に帰属するものとする。乙は甲に対して前記著作物について著作者人格権を行使しない。

●コンサルティングを受ける依頼者側の立場
 著作権が自己に帰属することがメリットとなりますので、記載例のような表現となります。

●コンサルティングをする受託者側の立場
一方、コンサルティングをする受託者側の立場からは、自社がもともともっていた著作物をコンサルティングの過程で依頼者に提供した場合、そのような著作物を後日、他社にも提供する可能性があれば、著作権譲渡の対象から除外しておく必要があります。
その場合は、自社がもともともっていた著作物は著作権譲渡の対象から除外することを明記しておきましょう。

【修正案】
第7条 委託業務の過程で作成された本件成果物及び本件業務遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作権法第 27 条及び第 28 条の権利を含む。)は、甲または第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、乙に帰属する。
2 甲及び乙は、本契約に従った本件成果物等の利用について、他の当事者及び正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しないものとする。


第8条 禁止事項・競合避止義務

コンサルティング業務にあたって禁止事項があれば記載します。
例えば、コンサルティングを受ける依頼者側の立場からは、コンサルタントが依頼者の同業他社にもコンサルティングサービスを提供する場合、自社のノウハウがコンサルタントを通じて同業他社に漏れないか心配になることもあるでしょう。
そのような場合は、依頼者と同業の他社へのコンサルティングサービスの提供を禁止する内容の契約条項を入れることが考えられます。

【記載例】
第8条 禁止事項・競業避止義務
乙は、本件コンサルティング契約の期間中は、甲と同一ないし類似の業種を営む事業者(ただし、東京23区内に本店の所在する法人ないし個人事業主に限る。)に対し、本件コンサルティング業務と同一ないし類似のコンサルティング業務を提供してはならない。


第9条 秘密保持

コンサルティングの過程で知った情報を他の目的で利用されないためにも秘密保持義務を定めておきましょう。

【記載例】
第9条 秘密保持義務
甲又は乙は、相手方の秘密情報を適切に管理し、本契約の遂行以外の目的のために使用してはならず、正当な理由なく第三者に漏洩してはならない。


第10条 損害賠償

コンサルティングの過程あるいはコンサルティングの結果としてなんらかの損害が発生した場合に、その対応について定めます。

【記載例】
第10条 損害賠償
甲又は乙が、契約の相手方当事者に損害を与えた場合には、その直接かつ現実に生じた通常損害に限り、賠償する。ただし、乙が賠償する損害額は、受領した報酬額を上限とする。

●コンサルティングの受託者側
受託者の側は、損害賠償を受けやすい傾向がありますので、記載例のように、コンサルティングフィーを上限としたり、通常損害に限定するなど、損害額の上限規制を設けるなど一定の歯止めが必要となります。
 また、そもそも、損害賠償の請求を受けることを避けるために、コンサルティング契約はあくまで委任契約であり、結果を保証するものではないため、その点を明記しておくこともトラブルの予防策の一つとなろうかと存じます。

【参照例】
第X条 責任制限
本件業務の遂行があくまでもノウハウの提供であって、いかなる結果をも確定的に保証するものではない。また、本契約書に関して、乙が甲に対して責任を負う場合には、その時点までに支払われた報酬額を上限とする。

●コンサルティングを依頼する側
一方で、委託者側は、たとえば、誤ったコンサルティングを実践したことにより、多大な損害を被る可能性もありえるため、損害賠償の上限規制を撤廃していただくように交渉していくことが肝となります。


第11条 契約の解除

相手に契約違反があった場合や、相手が破産した場合に、コンサルティング契約を解除できることを定めます。このような場合にまで、コンサルティング業務を継続することは、コンサルティン会社にとって、報酬代金の回収もできないことになってしまうからです。

【記載例】
第11条 契約の解除
 甲および乙は、相手方が次の各号のいずれか一つに該当したときは、何らの通知、催告を要せず、直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。
1)本契約に定める条項に違反し、相手方に対し催告したにもかかわらず、14日以内に当該違反が是正されないとき
2)監督官庁より営業の許可取消し、停止等の処分を受けたとき
3)支払停止若しくは支払不能の状態に陥ったとき、または手形若しくは小切手が不渡りとなったとき
4)第三者より差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立て、又は公租公課の滞納処分を受けたとき
5)破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算手続開始の申立てを受け、または自ら申立てを行ったとき
6)解散、会社分割、事業譲渡または合併の決議をしたとき
7)資産または信用状態に重大な変化が生じ、本契約に基づく債務の履行が困難になるおそれがあると認められるとき
8)その他、前各号に準じる事由が生じたとき

 

第12条 反社会的勢力の排除

相手方が反社会的勢力であることが判明したり、反社会的勢力と不適切な関係を持ったときなどにおいては、契約を解除できることなどを定めます。このような条項違反が発覚して解除をした当事者は、解除とともに、相手方に損害賠償の請求ができますが、解除された当事者は、解除によって被った損害などについては、賠償を受けることができないことなどを規定しておくのが通常です。

【記載例】
甲及び乙は、その役員(取締役、執行役、執行役員、監査役又はこれらに準ずる者をいう。)又は従業員において、暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標榜ゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「反社会的勢力等」という。)に該当しないこと、及び次の各号のいずれにも該当せず、かつ将来にわたっても該当しないことを確約し、これを保証するものとする。
(1) 反社会的勢力等が経営を支配していると認められる関係を有すること
(2) 反社会的勢力等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
(3) 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に反社会的勢力等を利用していると認められる関係を有すること
(4) 反社会的勢力等に対して暴力団員等であることを知りながら資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること
(5) 役員又は経営に実質的に関与している者が反社会的勢力等と社会的に非難されるべき関係を有すること

2 甲及び乙は、自ら又は第三者を利用して次の各号の一にても該当する行為を行わないことを確約し、これを保証する。
(1) 暴力的な要求行為
(2) 法的な責任を超えた不当な要求行為 
(3) 取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為 
(4) 風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いて相手方の信用を毀損し、又は相手方の業務を妨害する行為 
(5) その他前各号に準ずる行為 

3 甲及び乙は、相手方が本条に違反した場合には、催告その他の手続を要しないで、直ちに本契約を解除することができるものとする。

4 甲及び乙は、本条に基づく解除により相手方に損害が生じた場合であっても、当該損害の賠償義務を負わないものとする。また、当該解除に起因して自己に生じた損害につき、相手方に対し損害賠償請求することができるものとする。

 

第13条 合意管轄

コンサルティング契約に関連してトラブルが発生した場合にどこの裁判所で審理するかを定めます。

→基本的には、委託者側、受託者側の立場に応じて、それぞれの会社の本店所在地を管轄する裁判所を合意管轄裁判所とすることが裁判になった場合には地の利を得られます。

【記載例】
甲および乙は、本契約に関して紛争が生じた場合には、訴額に応じ、乙の本店所在地を管轄する簡易裁判所または地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

 

第4 まとめ

コンサルティング契約といっても、その内容は千差万別であり、契約書は実際の取引の内容に適合するような形の詳細なものを作ることが必要です。

上記のように、また、委託者か受託者かの立場の相違により、契約内容が有利にも不利にも働き得るものであり、契約条項の定め方次第では、受託者側からすると、費用に見合わない業務を要求されたり、クレーム対応を強いられたり、十分なコンサルティングを提供しなかったとして、大きな損害賠償リスクが生じる可能性もありうるところです。個別の事情にあった契約書になるように顧問弁護士に「契約書のリーガルチェック」を受けておくことが重要です。

当法人では、コンサルティング契約に精通した弁護士が、コンサルティング受託者の立場や顧客との関係なども踏まえて最適な契約書をご提案いたします。

 

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